地下シェルター②
プルルルル、プルルルル。ガチャリ。
「え!?なんだって!!?信じられん!!!」
受話器を取った物静かな老人が突然、狂ったかのように大きな叫び声をあげた。
3年前にここを出た、ルシムという青年が、どうやらオアシスを見つけたらしいのだ。
この世から全ての水が消失したと報道されてから30年は経過している。砂漠化により干上がってしまった地上に、今更オアシスがあるなんて話は、確かに信じがたいことだった。
ルシムはココを出てから3年間、毎日同じ方角に向かい前進した。
来る日も来る日も、決して吹き止むことの無い猛烈な砂嵐に頬打たれながら、ただただ前進したのだという。
私は彼がオアシスを見つけたということよりも、彼が3年間も毎日この砂嵐の中を歩き続けていたという話の方に唖然とし、驚愕した。
ルシムは電話口で、今目の前にあるオアシスがいかに最高であるかを騒々たる口ぶりで語り尽くした後、「南西を目指すのだ」とだけ言い残し、電話を切った。
老人はしばらく興奮し、騒いでいたのだが、だんだん何かを悟ったかのような表情になり、もうしばらくすると、数分前と何一つ変わらぬ、もとの物静かな老人に戻っていた。
南西に向かってひたすら進めば、地上最高の楽園、オアシスに辿り着く。
しかし、それは、この猛烈な砂嵐の中を3年間、毎日毎日歩き続けてこその結果なのである。
電話機の周りに集まってきていた者たちも、きっと私と同じようなことを考えたに違いない。
まるで、エンドロールが流れ出した映画館のように、1人また1人と皆次々とどこかへ去っていった。
たとえオアシスへの方角がわかっていたとしても、3年間という長い年月を苦しみながら歩き続けるなんて、皆ごめんこうむりたい。
そんな苦痛に耐えるくらいなら、ここの現に安全に暮らせる地下シェルターで一生を終えたほうがいいに決まっていると。
早い話、そういうことなのだろう。
私は電話機の前で決断しきれずにいた。
ふと辺りを見渡すと、私以外にも悩んでいる様子の若者が数人、その場に立ち尽くしていた。