ゲージの中の太朗。
小学生くらいの頃、ハムスターを飼っていたことがある。
名前は太朗。名前の由来は不明だ。
太朗は初めてのペットということもあり、大事に育てた。
1週間に1回はゲージ内を掃除し、毎日エサをやり、回し車や布団も与えた。
まさに何不自由ない環境を与えて、愛情をもって育てた。
しかし、太郎はよくゲージから逃げ出す癖があった。
しっかりとゲージの蓋を閉めているのにも関わらず、朝起きると、ゲージに太郎の姿が見当たらないのだ。
脱走した日は家族総動員で太郎を捜索したものである。
だいたいは、タンスの裏や、冷蔵庫の下などの隙間で発見された。
死の直前も太郎は脱走した。
太朗が最後に脱走した日は、なかなか見つからなかった。
見つけたのは、逃げてから2日目の朝。
押入れの奥にある、収納の下、埃だらけのところで見つかった。
太朗はひまわりの種を口いっぱいにつめこみ、冷たくなって死んでいた。
その日俺はめちゃくちゃ泣いた。
なぜ、太郎は最後の最後まで脱走したのだろうか?
見つかりにくい場所に隠れ、口に多くの食料を貯め込んでいたことから、おそらく太郎は前々から大脱走の計画を練っていたのだろう。
しかし、太郎は夢の途中で力尽きた。
今の俺は、太郎よりひどい。
この狭い部屋というゲージにひきこもり、ゲージから本気で脱出しようとすらしていない。
俺は、勇気や行動力の面で、死んだ太郎を見習わなければならない。
太朗。俺がんばるからな!!
あの世で待ってろよ太郎!!