女の子の泣き声が聞こえてきた。
今日は朝から瞑想をしていた。
呼吸の瞑想といって、息を吸ったり吐いたりする時の腹の膨らみや凹みに意識を集中して、雑念を消す瞑想の一種である。
膨らみ、凹み、膨らみ、凹み…と心の中で唱え呼吸のみに意識を集中させる。
目を閉じてそれをやっていたのだが、昨日から寝不足だという理由もあって、だんだんウトウトしてきてしまった。
イカンイカン!集中集中!と我に返るも、眠気の威力はすさまじい。
頭をカックンカックンさせながら、全然集中できないなぁと嘆いてたら、不意に外から小さい女の子の泣き声が聞こえてきた。
キーー!キーー!っという風な、すごい甲高い声の泣き声だ。
泣き声というより、金切り声のような喚き声といったほうが表現としては近い。
うるさいなぁ…と思いつつも、すぐ泣き止むだろ…とか思って耳を澄まして聞いていたら、それが結構シツコイ。
ずっと一定の間隔でキーーー!、、キーーー!、、キーーー!、、キーーー!ってリズミカルに泣き喚き続けている。
なんでそんなにシツコクわざとらしい金切り声を上げ続ける必要があるのだろう?
おそらく、女の子が何か悪さをして親に家を追い出されたのだけれど、女の子は一刻も早く家に入れて欲しい。
だから、わざとシツコク一定の間隔で何度も何度も駄々をこねるように金切り声を上げ続け、親に自分を心配させようとしているのだろうな…と勝手に推測したりしていた。
まぁそのうち疲れ果てて泣き止むだろ…とか思って悠長に構えてたら、10分くらい経っても全く泣き止む気配が無い。
気を長くして耐えていた俺も、だんだんイライラしてきて、瞑想を中断して外を見に行こうとした、その瞬間である。
あれだけシツコかった泣き声がピタリと止んだ。
あれ?泣き止んだ?
親に許してもらって家に入れてもらえたのだろうか?
何はともあれ、良かった良かった。
そうして安心した俺は、再び最初から呼吸の瞑想をやり直すことにした。
無事に返却された静寂。
俺はこの静寂を流れる神聖な空気を、めいいっぱい鼻から吸い込んだ。
その瞬間である。
突然俺の鼻からピーーー!!という甲高い音が鳴り響いた。
俺は最初、何が何だかよく分からなかったのだが、そのまま呼吸を続けてようやく理解したのだ。
ピーピーピーピーとうるさかったあの騒音は、俺の詰まり気味の鼻から鳴っていたダラシのない呼吸音だったのである。
眠気と瞑想状態の狭間にいた俺は、どうやらそれをヒステリックな女の子の喚き声と認識していたらしい。
自ら騒音を出し、それにずっとイライラさせられていた自分を思うと、あまりの愚かさに俺は吹き出してしまった。
でも、こういう愚かな事って実は結構身近にある事なのかもしれない。
自分の非が原因で発生している不幸を、さも他者が発生させているのだと勘違いし、よく検討もせずに永遠とイライラしている状態。
それは、今現在の自分自身が濁った幻想の世界を彷徨っていることが根本的な原因となっており、ただ単に自分が明瞭な現実世界に目覚めていないだけなのかもしれない…という捉え方もできるなと思ったからである。
もし仮に今自分が幻想世界の中を彷徨っているのだとして、そこを現実世界だと錯覚しているのだとしたら、やはり瞑想修行を続ける必要があると感じた。
また、睡魔という快楽欲求が今回私を幻想世界へと誘ったことを考えると、快楽は幻想世界の扉を開くキッカケになっていることが伺える。
それもやはり遠ざけるべきものなのだろう。
禁欲主義を徹底し、快楽を遠ざけ、瞑想修行に務める。
真実の世界に生きる真の住人になる為には、こうした鍛錬が欠かせないと思い知らされた1日であった。